陽はまた昇る/The Movie on how one engineer and his marginalized team brought Victor VHS into the Market

aztimegoesby2005-03-12

前々から一度観たいと思っていた日本映画 http://www.toei.co.jp/hiwamatanoboru/を観た。


知っている人は多いと思うが、この映画はビクターの一開発者とその「主流から外れた」240人くらいの横浜工場のチームが家庭用ビデオと、VHSを世界規格にしていくまでの夢とこだわりの実話をベースにした作品である。実際にhttp://www.jvc-victor.co.jp/company/info/toei.htmlこのビクター社のページからもそのエピソードを辿っていくことができる。


ストーリーは、ソニーのベータマックスが業界規格となっていこうとしている同時期のビクター。「開発さえしていたら幸せ」で、高校卒業以来ずっとビクターで開発一筋の加賀谷(西田敏行)とそのチームが家庭用ビデオ開発の企画を温めていた矢先、加賀谷の左遷から始まる。彼が飛ばされた先は、当時の横浜工場ビデオ事業部。課せられたミッションは、この先20%の人員削減である。


NHKの「プロジェクトX」でも採り上げられたというが、まさに家庭用ビデオという商品を一般家庭用に普及させ、2時間録画という消費者の圧倒的な要望を叶え、ベータマックスに対してVHSを規格化させた一人の男の夢とこだわりの物語である。しかし、その夢とこだわりの素晴らしい部分はそこらここらに溢れている。例えば、まず人員削減を命じられたが、一人たりとて横浜工場から退職者を輩出しなかったこと。むしろコストや人員削減に走る本社幹部の考えとは逆送して、「こういうときこそ、自社開発を」と叫び、実行したこと。何よりも自分たちの夢とこだわりを強く持ち、自社の技術力を最後まで信じたこと。


途中いろいろ波乱はおき、優秀な技術者をも資金調達のために営業に回らせるシーンでは、優秀な開発者で熱心な部下の一人が彼のもとを去り、松下へ転職していってしまう。大卒で将来は本社へ戻ってしまう次長は、人員とコスト削減の具体案を要求される中、開発費をさらに必要とする加賀谷事業部長とのっけから衝突する。下請け業者たちが心を開いてくれるようになったのも、地と汗を共に流した苦労の賜物だ。家庭でもよき支援者である奥さんが倒れたり、と色々ある。


しかしその苦労の甲斐あって、まずは次長が加賀谷と同じ夢をみるために共に山に登ることを約束してくれる。本社の幹部にも理解者が生まれ、通産省ソニー、同業メーカーなどとの調音に苦労しながらも、最終的には松下幸之助氏の賛美をもらうことに成功する。彼のすごいところは、苦労の結晶に思えたビクターの家庭用ビデオ試作1号機を、「これは各社の技術の結晶であって、ソニーやうちや各社の技術が積み重なってできた技術。だからその技術をオープンにし、VHSをまずは広め、いずれ世界中の家庭がVHSビデオを使っているその場面を想像してごらん。」というところにある。ちょっとした優越感や、機密にこだわらず、むしろオープンにし、普及させることに夢をみた開発者。スケールがいいなぁ。結局、この加賀谷さんの確かな目と、部下や組織を大切にして粗末にしない心、その結果他社との比較ではなく、自分達を信じられる自分たちを作ることに注力したことが素晴らしいと思った。あたり前のようで、なかなかできないことだからだ。


島耕作」も、この「陽はまた昇る」も日本企業に身を置いている人なら必ずやある程度共鳴できるテーマ。会社に魂を捧げて生きてきた会社員にとって、ある日突然リストラを通達されたら?採算重視の中で、各社これといった特徴も戦略もなく、ただ横並びになっていく方針を経営者に聞かされたら?不器用ながらも、開発者魂を貫き、どんな社員ひとりひとりの背負った人生や家族も見捨てない上司に、最後人はついていく。松下幸之助氏から届いた手紙の中に、彼の意志を動かした一通の手紙が同封されていて、それはかつて加賀谷のもとを去り、松下へ転職したあの彼が幸之助氏に宛て加賀谷氏をべた褒めした手紙だったみたいに。


夢とこだわりをもつこと。
それこそがまず第一に大切なことで、それができないのにヒット商品なんか世の中に産み出せるわけないんだよね。